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小刀研磨例

 

 ここでは当工房で研磨しました最新の小刀の研磨を御紹介したいと思います。

 小刀とはいっても長い御刀同様の研磨を施すことによって大変魅力ある作品になるということが御理解いただけると思います。

 

小刀の魅力を是非御堪能くださいませ。

 

 

(無銘)

 

 

 真っ赤に錆びていた小刀を研いでみました。詳細画像(←クリック!)

 この小刀は所有する脇差拵えの小柄ツナギにしようと思い求めたものです。

 当初は真っ赤な錆に覆われ、朽ち込みも酷く、そのままでは拵えの小柄櫃にツナギとして入れる事すら出来ないほどでした。

 所謂、”数物”でして、、その数物の中でも決してランクが高いとは言えず、そのためか、長年放置されたものでしょう。

 

 とにかく、このままでは錆びていてツナギとしても使えませんので錆だけでもとにかく落そうと研磨に着手した次第です。

 仔細に見るまでもなくナカゴは細く、しかも小柄に入れるためにS字状に細かく曲がり捩れも加わっていました。

 銘の部分は朽ち込みが特に酷く、銘の痕跡らしきものはあるようにも見えますが、無いに等しい状態です。

 

 荒砥から順次研ぎ進めて、結果は写真のようになりました。

 刃区からボンヤリ始まった刃紋は小刀区付近まで直刃がありますが、その先で一旦途切れています。

 途切れた先からは湾れ調となり、切先はまたボンヤリして途切れがちになってしまっております。

 なんとか返りらしき部分を探し、それを浮かび上がらせようと刃取りも行いました。

    

 地金の鍛えは裂け気味な柾目が切先に向かって緩やかにうねっています。

 やはりちょっと地金は粗い感じですが大きな疵が無かったのが救いです。

 

 「研いでくれてありがとう!」 小刀のそんな声が聞こえたようにも思えて、せっかくなのでツナギにするのは

 やめて共柄木ハバキの白鞘に入れて保存する事にしました。

 

 この無銘小刀同様、錆びた小刀も研磨白鞘製作を施す事で、かなり美しくなります。

 そして錆びたまま沈黙を続けてきた小刀がやっと本来あるべき姿に戻る事が出来るのだと思います。

 

 

貞吉

 

 

 ”貞吉”銘のある現代刀の大小刀(おおこがたな)です。

 刃渡り14.2cm、元重ね3mmと、小柄小刀としては大振りです。

 このような大振りの小刀を大小刀、もしくは大小柄と言います。

 この大小刀は私が18歳の頃に入手したものですが、当初はあまり良い研ぎ状態ではなく、ぼやけた感じになっており、白鞘も良いものではありませんでした。

 ずっとそのままの状態で保管してましたが、この度白鞘も新調し、研磨をし直しました。

 小刀の場合、研磨面である裏側は基本的に真平ですのでこれを修正、名倉、細名倉、内曇と進めていくうちに見違えるほど良くなっていきました。

 鍛えは板目肌がやや肌立ち気味ながらしっかりとしており健全。

 刃区上には則重風の鍛えが見られ、地景入り、湯走りも激しく躍動感あふれる相州伝です。

 

 地刃の硬度差も想像以上に少なく非常に研ぎやすい作品でした。

 

 この大小刀の貞吉は湧水子貞吉(本名 榎本吉市)刀匠で水心子正秀の流れを汲み、相州伝、大和伝を得意とした名匠です。

 実際に研磨してみまして、その技量の高さを改めて感じる事ができました。

 

 入手してから長い期間半ば忘れかけていて、眠ったままになっている御品も多いと思います。

 しかし研磨する事によって新たな発見があったり、かけがえのない愛刀に生まれ変わる事もまた事実です。

 この貞吉の大小刀はその好例だと思いご紹介させていただきました。

 

 

田代源一兼元作

 

 

 ”田代源一兼元 作”と銘のある小刀です。

 比較的良く見かける銘で私自身も数本所持していて、そのうちの一本です。

 ナカゴは摘んでおらず、ウブであることは好ましいのですが鍛えはやや粗めです。

 刃紋は直刃に焼き出し、湾調に山を三つ焼いて、やや突き上げ気味に返っております。

 

 研磨に当たりましては全面錆で覆われておりましたが意外と浅く、順調に進められました。

 銘のある表側は掟通り大村砥粉末で荒錆を落とした後、”泥摺り”と言って、田圃の土で艶を出してみました。

 

 この小刀もごくありふれた、所謂数打ちの部類ですがこうして研ぎ上げて銀ハバキ、白鞘も作るとなかなかどうして立派に見えてくるから不思議ですね。

 気楽に、そしてちょっとした遊び心も味わえる小刀コレクションですが、

 長い刀にも負けない魅力があること、たとえそれが数打ちでも素晴らしい愛蔵品となることを教えてくれる、そんな一本だと思います。

 

 

対馬守藤原兼重

 

 

 この小刀は決して刀工の入念作というものではありません。

 ”対馬守藤原兼重”と銘がありますが銘のある表側は若干磨耗しており現状では真贋不明というところです。

 しかしながらナカゴも詰まんでないウブナカゴ、重ねも比較的ありしっかりとした体配です。

 裏側である研磨面を御覧いただきたく思います。

 この飛焼きは川面を流れる楓をイメージしたもの(竜田川)ではないでしょうか!?

 大変躍動感溢れる刃紋ですね。

 小刀は限られた僅かな面積の中に刃紋の働きを表現させるため、このような絵画的な刃紋が非常に多いのも特徴でそれが私達を楽しませてくれる大きな要素です。

 次に地金を観てみましょう。

 柾目を基調にほぼ中央部に板目が現れ、飛焼きと相まって絵画的な表現にさらに深みを添えています。

 小刀によくありがちな柾割れや疵も全くなく、良く鍛えられていることも好感が持てます。

 

 付属の銀ハバキ、白鞘も研磨と同時に製作したものです。

 いずれも小さいが故の制作上の難しさを伴いますが仕上がった刀身をさらに引き立てる重要なアイテムです。

 

 長い刀剣に比べ、比較的安価に、気軽に入手できる小刀でも研磨することによってこんなに美しく輝きを放ちます。

 どうぞコレクションの参考になさってくださいませ。

 

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