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お引き受け出来ない御刀見本

 

 ここでは残念ながら御依頼いただいてもお受け出来ない御刀の事例を写真を添えて御紹介しております。

 その多くに共通するのは古式鍛錬によらない、洋鉄製の半鍛錬、未鍛錬で製作された軍刀類です。

 是非ご参考になされて下さいませ!

 

 

指揮刀

 

 

 俗に”サーベル”と言われるもので指揮刀です。

 大戦時には多く用いられ生産されたものです。

 

 上から3振りは陸軍の指揮刀、4振り目は海軍指揮刀です。

 

 

 陸軍用、海軍用ともに刀身表面仕上げはメッキで、陸軍のほうは互目乱れの刃紋をメッキの上から描いています(もちろん本物の焼入れの刃紋では ありません)。

 

 海軍のほうは刃紋を描くこともなく単にメッキのみです。

 

 

 

 3振りの陸軍指揮刀から御紹介いたします。

 いずれも同形式の作り込みで二振りは当時のまま房紐も付いています。

 鞘が金属製である事から手に持つと細身の割りにはズシリと重みを感じますね。

 

 

 

 刀身はメッキが施されたもので刃紋が書かれていますが文字通り指揮を執るための道具である事から模擬刀です。

 当然現状では刃は立っておりませんし切れません。

 美術刀剣としての刃紋の働き、鍛え肌の美しさは望むべくもなく単なる軍隊の道具に過ぎません。

 

 

 こちらは海軍の指揮刀です。

 もちろん当時のオリジナルです。

 陸軍のものと比べると見た目にも良さそうな気がします。

 柄には鮫皮を使い、金具は金メッキ、鞘は厚手の皮を用いています。

 

 

 刀身はオールメッキで陸軍の指揮刀のような刃紋も描いてありません。

 切先諸刃造りの形状ですが当然ながら指揮刀の為切れません。

 

 

指揮刀についての総括

 

 ご紹介させていただいた指揮刀についてですが、インターネットからはもちろん、直接研磨のご相談で当工房に持ち込まれるケースが非常に多いです。

 しかし、指揮刀は戦時中の指揮を執るための道具として、或いはミリタリー愛好家には価値が有ると思いますが、美術刀剣として研磨する対象ではありませんし、そのように作ってもありません。

 

  銃刀法の観点から、知人の警察官、法律専門家に聞いたところ、製作された目的が指揮を執るための戦時中の道具であり武器ではないことから、現時点では取締りの対象ではないようですが、今後銃刀法が厳しくなることも考えられます事から充分慎重になるべきだと思います。

 

 また、仮に指揮刀に刃付け加工しますと、その時点で銃刀法に抵触し、摘発の対象になりますから取り扱いには充分御注意されること、お願い致します。

 

 

昭和刀

 

 

 当工房で研究用に所蔵している”昭和刀” 2尺2寸7分(登録証付)を例にお話を進めたいと思います。

 

 ご覧のように薄錆は出ていますがごくありふれた時代拵えに入っている刀身です。

 ただ、良く合わせてはいますが所謂、後家で、柄、塗り鞘、鍔、切羽は刀身に合いそうなものをチョイスしているものです。

 これは昭和刀に限らず、美術刀剣でも流通の過程では良くあることですので許容範囲と考えます。

 

 余談ですが美術刀剣の場合、後家の拵えに入った刀身でも、正式にその御刀用の拵えを作ってあげるのも愛刀家の楽しみでもありますね。

 

 

 

 ナカゴの銘の上に桜の刻印、その刻印の中に”昭”の字が刻まれています。

 これは未鍛錬の昭和刀の中でも耐衝撃試験に合格した昭和刀であることを示す刻印です。

 北支那、満州(現在の中国黒龍江省あたり)の極寒の地でも折れずに使えると言う証明ですが、実際はどうなんでしょうか!?

 

 これ以外にも錨の刻印が入った海軍用の刀身があります。

 

 この刻印の存在は刀身自ら美術品としての刀剣ではないことを物語っているとも言えます。  

 

 

 刃紋は一見綺麗な三本杉です。

 しかし油焼きのため匂い口は鉛筆で書いたような全く変化のないものです。

 無鍛えですから当然鍛え肌というものはありません。

 鍛え肌はありませんから鍛え疵がない事が昭和刀の最大の長所でもあります。

 

 美術刀剣を研磨する際は、時代なりの姿、刃の働き、鍛え肌など、刀工群、流派や各刀匠の特色を意識して研磨します。

 そういう意味でも働きの無い刃紋、鍛えていない地金では研磨する価値が見出せません。

 

 ただこの昭和刀は三本杉ですから強いて言えば孫六兼元の流れを汲む美濃伝ということでしょう。

 

 

 切先の帽子を観てみましょう。

 この昭和刀は横手下の三本杉をそのまま受けて尖り刃になっています。

 ただし、この尖り刃以外にも大丸になっているものも非常に多いです。

 

 

 銘文を観てみましょう。

 ”濃州武正義臣作之” とあります。

 もちろん銘鑑や他のどの刀剣書にも無い銘です。

 

 ”濃州”とありますから、今の岐阜県関市の軍刀工場で製作されたものでしょう。

 一応、ヤスリ目はは鷹の羽になっています。

 しかし、ナカゴの仕立ては粗く、角が立っており持っていても何か違和感を覚えますね。

 

 刀剣史の中の昭和と言う時代を語る上で避けては通れない産物、そういう意味では貴重な資料とも言えそうです。

 

 

 

 当工房に研磨ご依頼で届けられる御刀の中にはこのような御品も時々ございます。

 そしてお客様御自身が、正規の日本刀で、”研げば美しくなる”、”自慢の愛刀として保存したい”と信じておられる場合がほとんどです。

 そのようなお客様に事実を申し上げお断りするのは当工房としては本当に心苦しく辛いものです。

 日本刀をお求めになる時、そして研磨をお考えの時の参考にしていただければ幸いです。

 

 そしてこのページが美術品としての日本刀をコレクションする為にお役に立てれば望外の喜びです。

 

このページでの記載は既に大切な遺品として所有なされている方とそのお品の価値観を否定するものではありません事、申し添えます)

 

 

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